さべひろのこと

お腹が減りました。

すき焼き

f:id:hsabetto:20111120193630j:image:w240:right昨晩の夕食は奥さんのたっての希望で、すき焼きだった。

すき焼きは、私には決して美味しいと思えない料理で、どちらかと言えば好きでない部類に入る料理だ。だから何年も食べていなかったのだけれど、奥さんの口からすき焼きと聞いた途端、何だかたくさんのことを思い出した。好きでないけれど、多分特別な料理。

子どもの頃、正月に母方の親戚と一堂に会するときは、すき焼きを囲むのが常だった。昼間から始まる宴は、酔っぱらった大人たちのつまらない話とともにだらだらと進み、後半には濁ってすっかりしなびてしまったすき焼きの具はもう美味しくなかった。私にとってお正月の食事は、おじいちゃんの代から引き継いだお餅つき機で作るつきたてのお餅を、白みそのお雑煮で食べるか、きな粉をたくさんまぶして食べるか、が一番だったので、それを断ってまで、つまらない話につきあって美味しくないすき焼きを食べるのは楽しくなかった。山のように砂糖を盛って醤油をどぼどぼかける味付けも、その所作にはわくわくしたりした反面、何だか無粋に感じてしまった。唯一の楽しみは、卵は一日に一つしか食べてはいけないいつものルールが、お正月のこの日には解禁されて、すき焼きのつけ汁になる卵はおかわりが許されたことくらいだった。(それだってだけど、あっという間に色が落ちて行く卵にいつも寂しさをおぼえたんだけど)

くだらない思い出は他にもある。確か私が小学校高学年くらいの頃、母か妹が、すき焼きのつけ汁にマヨネーズを使うと美味しいという食べ方を仕入れてきて、早速家でそれを試したことがあった。すると父は何が気に障ったのかその食べ方に烈火の如く怒り、マヨネーズをすき焼きにぶちまけて、その晩のすき焼きはぶち壊しになってしまった。(私も、卵を差し置いてマヨネーズだなんて認められないと主張した側だったのだが、そんなに怒る父親を理解はできなかった)

まだある。一晩経って余ったすき焼きの鍋にもう一度火を入れて、卵を落として目玉焼きにすると美味しいと母は言い、何度か作ってくれたけど、私には普通の目玉焼きの方が何倍もおいしかった。

と、今思えば楽しいけれど、当時は楽しくないことばかりのすき焼きのことを思い出しながら、昨晩はすき焼きだった。

娘にとっては昨晩のすき焼きが初めてのすき焼きだった。卵につけてやや甘くて濃い味付けの具を食べるのがものすごく楽しくて美味しいらしくて、いつにも増して大量にかき込んでいた(食べ終わった後、食べ過ぎてお腹が痛いと泣いていた)。私にとっても久しぶりの昨日のすき焼きは、なんと美味しかった。自分で好みに味を付け、満足そうな奥さんと満足そうな娘を見ながら、自分も気がついたら貪るように食べていた。

何層かのあまり楽しくないすき焼きの思い出の一番上には、現時点では昨晩の美味しかったすき焼きが乗っかってる。